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ザ・ルネサンス・マン
[ 2004 Mar 29 / This is Fake DIY ]
"ベルギー"という単語を聞くと、たいていのイギリス人はチョコレートと戦争の塹壕を思い浮かべるのだが、
フランス人の場合には、イギリス人にウェールズと言ったときとまったく同じ嘲笑が返ってくるはずだ。
あるいはイギリス人がウェールズ人について言うのと同じ、農場生活での近親交配についての下品なジョークかもしれない。
広大な緑の大地での退屈な労働というイメージにもかかわらず、都市部には広大な都市カルチャーの放牧地も存在するのだと聞けば、きっとあなたは驚くだろう。
サプリメントに埋もれて、世界経済の勝利のために開発されるのを待っているのだ。
けれど、フランス人には、このつながり深い音楽ファミリーを嘲笑することはできない。
このファミリーは英語の話し手を通じてヨーロッパ中にひろがりつつあるのだ。
そういったファミリーには、だれかヴォーカルやギターをあちこちで披露している人間がいて、他のグループとメンバーを共有しあっている。
そのため、レコードを作る時やヨーロッパをツアーして回るときになると、だれ一人替えが利かない。
もちろん、このファミリーは文字通りの家族ではない。
ミュージシャン仲間の集団であり、ハリウッド映画に出てくる、忠義を重んじるマフィア一族のようでもある。
その、ミュージシャンたちのファミリー・ツリーは真に驚くべきものだ。
開放的でないこの音楽界に関わる人間それぞれの才能を組み合わせるという方法は、このような才能にあふれた肥沃なミュージック・シーンを創るうえで、とても新鮮で、けれどシンプルな方法である。
ブリティッシュ・ミュージック・シーンに見られるような対抗関係や論争とくらべると、ベルギー・シーンのアプローチはそれほど攻撃的ではなく、それよりはかなり能率的であるようにみえる。
レコーディングされものはすべて、結局のところ、途方もない才能の溶け込む巨大なメルティング・ポットになる。
こういった本当に素晴らしい財産のおかげで、ファンは、運よく発見したバンドの歴史を調べることに熱心になり、活発に関わることができる。
マウロ・パヴロスキMauro Pawlowskiは、そうしたベルジャン・ミュージック・シーンのゴッドファーザーの一人であると言える。
イタリアとポーランドの血を引くベルギー育ちの彼は、1971年にHeusden-Zolder*1で生まれ、
deranged(錯乱した)でmind-blowing(幻覚を起こすような)な"ギター野郎guitar wankery"としてEvil Superstarsを1992年に結成。
このイーヴル・スーパースターズは"疾走するマルクス兄弟Marx Brothers on speed"*2と例えられたりもした。
彼は、世界の音楽界の伝説になっていたはずの人物である。もし、もっとレコード会社の重役たちにアプローチしやすい土地にいたなら、という条件付ではあるが。
パヴロスキは間違いなく天才と分類されるような人物であるが、彼の才能は吼え喚く狂人と紙一重であると主張することもできなくはない。
なにしろ、Mitsoobisy Jacson*3のアルバムのリーフレットが書くところによれば、"彼が目撃されていたときはいつでも、ブラウン・ブレッドのスライスにものすごい量のマスタードを載せてもぐもぐ食べていた"そうだ。
彼の狂気は特にステージ上で異彩を放つ。
今までマイクのなかったところにマイクを持ち込み、一方で自分の書いた歌詞を歌い叫び、へヴィなギター・リフを叩きつけるように弾きまくる。
パヴロスキの詩を聴いていると、彼の第一言語が英語ではないということは信じがたくおもえる。
これほど直感的に英語を使えるというのは、ネイティヴ・スピーカーにとってさえ、ほとんど幻想に近い。
パヴロスキの歌詞は、デヴィッド・ボウイDavid BowieのStardust時代の歌詞の混沌と茶目っ気をそなえているようでもあり、
その一方でプリンスPrinceの歌詞のもっともsleaziest(薄っぺら)な部分を取り入れたような歌詞を書いてみせる鋭さもある。
1996年にマウロ・パヴロスキは"ラヴ・イズ・オーケイLove is Okay"を発表する。
何かがこのバンドを他とはまったく違ったものにしており、チャンスさえあれば、彼らは音楽に革命をもたらしていたことだろう。
15歳という若さのティム・ヴァンハメルTim Vanhamel*4をメンバーに加え、バンドは2年間、アルバムのためにツアーに出る。
その日程の中には、イングランドでのプラシーボPlaceboのサポートやヨーロッパでのdEUS*5のサポートも含まれていた。
アルバムはベルギーで大成功を納め、Het Nieuwsblad紙にはこう書かれた。
"いつの日かHeusden-Zolderにマウロ・パヴロスキの像が建てられることだろう。
パヴロスキは彼の頭の中にあるディスコを歩き回って曲を作る。…廊下を徘徊し、棚をあさり、許された取り分より余分に失敬する。
ビートルズBeatlesやザッパZappa*6、オールタイムのトップ100に入るすべてのミュージシャンだけでなく、
ローファイなバンドの世に埋もれたBサイド曲、ジョン・ゾーンJhon Zornのこんがらがったモダン・ジャズ、
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンRage Against The Machineのレコードやマライア・キャリーMariah Careyまでもが彼の素材であるかのようだ。
イーヴル・スーパーースターズEvil Superatarsがやっているのはアヴァンギャルド・ミュージックだ。
しかし彼らは、どうやってそれを包み隠し変装させるかを知っている。
だから出来上がった曲はファニーでキャッチーだし、ウーウーウーウーoeoeoeoeといったコーラスや素晴らしいメロディのおかげで、彼らの曲はいっそうポップなものになっている。"
ヴァンハメルの助けをえて、パヴロスキは1998年の"Boogie-Children-R-Us"を発表し、アルバムは再びヒットした。
"Oh Girl"という曲は"Lock, Stock And Two smoking Barrels"のサウンドトラックに収録されているほどだ。
アルバムからの最初のシングル"B.A.B.Y"はMTVでは放送禁止になったけれども、"It`s A Sad, Sad Planet"はベルギーのラジオではカルト・ヒットになった。
しかし所属していたレコードレーベルが買収されるとバンドは放り出されるのだった。
つまり結局のところ、Evil Superstarsの数少ないアルバムは、現在までのところ、彼らが契約していた間に売れた物だけが市場に出回っているすべてということであり、
新しいファンにとって彼らのアルバムは大変手に入り難いものになっている。
パヴロスキPawlowskiの数あるサイドプロジェクト*7にはKiss My Jazz、X-Legged Sally、Mitsoobishy Jacson、Sue Daniels、Thou、Atomic、Sukilove、Chitlin Fooks、Shadowgraphic City、
また"Zippo""Freakes"といったシアターFroe Froeのミュージカルのaccompaniment(伴奏)などがある。
加えて、"Daialling The Devil"や"Rosie"といった映画のサウンドトラックにも参加している。
パヴロスキPawlowskiはまた、Cassini DivisionやAtomic Color Perceptions、Atlantic Palace Hotelとして有名なMiguel AngelとともにフリージャズのMonguitoを結成。
パヴロスキの才能の多様性がみてとれる。
2000年にはパヴロスキPawlowskiはDead Man RayやAgathocles、Noordkaap、Revelaires、Whim Punk、Whodadsでプレイしていたメンバーを集めてバックバンドをつくった。
Evil SuperstarsのほかHelmet、Soulwax、Slayer、Rage Against The Machineなどと仕事をしたことのあるDavid Sardyがアルバム"Songs From The Bad Hat"をプロデュース。
批評家たちは再び彼の作品を高く評価した。Mao Magazineはこう書く。
"以前のエネルギーや活力、多少の騒々しさは残っているが、それにもましてこのアルバムにはEvil Superstarsに見られなかったものがすべて存在する。
制御、簡素さ、目的、パワフルで透明、機能的なサウンドと、主には、70年代とその時代の音楽の意味するものすべてへのまれにみる傾倒であり、
そして精神面でいえば、思慮分別である"
2003年のはじめにはソムナブラSomnabulaが生まれた。神話はこう語る。
この悪魔の弟子は音楽を通してしかコミュニケーションできない。
そして歌に闇が降りた時、すべての人々が"I Am Somnabula"という声を聞くことができるのだ。
Somnabulaはベルギー中のクラブにケープ姿で現れ、賛美歌を詠唱し、ステージから飛び降り床に寝転がり、痙攣し、マイクに向かって喚く。
そして見えるものすべてを破壊して去っていく。
噂によれば、Somnabulaはパヴロスキ以外の何ものでもないという。
彼が自分のSataticなレコードコレクションを聞いて変身した姿なのだそうだ。
これはパヴロスキの精神活動の様子の一例にすぎない。
ギグがとても静かに終わるのにもかかわらず、自分自身を再構築し、外套に身を隠すことでかえって、彼が誰だかすぐに分かってしまう。
一方で、Mauro Pawlowski And The Groomsはデビュー・アルバムとなる"Black Europa"を発表したばかりである。
警告しておくと、これはお気楽な人間向けのアルバムではない。
音楽が挑みかかってくるかのように、聞くものの耳を蹂躙する。今まで聴いたことのなかった音楽。
全く新しいオリジナルなのだ!なんと新鮮、なんと素晴らしい、なんと驚くべきことか!
このマウロ・パヴロスキという人間は、確かに、真に音楽を愛するものにとって意味のある人間なのだ。
Jondalar
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蛇足な訳注。
*1 Heusden-Zolder
Limburg州の地名。
Heusden-Zolder at Multimap
*2 Marx Brothers
イギリスのコメディアン兄弟。
音楽ネタもやってたようです。チャップリンと同世代だとか…
こちらのページが詳しいです。
*3 Mitsoobishy Jacson
マウロのサイドプロジェクトのひとつ。
イントロページ参照。
*4 Tim Vanhamel
Evil Superstarsではギターとバックコーラスを担当。
ES解散後Millionaireを結成。人名録ページ参照。
*5 dEUS
人名録ページ参照。
こちらのサイトが詳しいです。
公式サイト
*6 Frank Zappa
なぜかベルギーではフランク・ザッパが大人気、のような気が。
公式サイト
*7 Side Project
挙げられているバンドのうち、ゲスト参加のものは
Kiss My Jazz、X-Legged Sally、Sue Daniels、Thou、Atomic、Sukilove、Chitlin Fooks。
マウロがフルで関わってるものはMitsoobishy Jacson、Shadowgraphic City。
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